温室効果ガス排出削減中期目標[2009年10月03日(土)]
前回「衆ノ雑感」高速道路の無料化でも紹介したとおり民主党は、2020年までに温室効果ガス(主に二酸化炭素)を1990年比25%(2005年比30%)減らす中期目標をマニフェスト(政権公約)として掲げ、鳩山由紀夫内閣総理大臣が2009年9月22日、国際連合本部(米国ニューヨーク市)で開かれた気候変動首脳会合(気候変動サミット)で正式に表明した。
気候変動サミット開会式で演説する鳩山由紀夫内閣総理大臣

<写真提供>首相官邸
温室効果ガスを「2020年までに1990年比で言えば25%削減を目指す」とする中期目標を各国首脳の前で表明した。また、途上国の温室効果ガス排出削減について、「これまでと同等以上の資金的、技術的な支援を行う用意がある」と述べ、これらを『鳩山イニシアチブ』として国際社会に提唱した。
日本が従来(自由民主党の麻生太郎前政権が掲げた2005年比15%削減)より踏み込んだ中期目標を打ち出しことに欧州連合(EU)は、野心的な目標と高く評価した。ただ、国情を勘案すると目標達成に向けて前途多難である。民主党は、1990年比25%削減を想定し、太陽光発電の導入量を現状の55倍に普及させ、新車販売の9割(保有車の4割)を電気自動車などエコカーにするほか、国内排出量取引制度と地球温暖化対策税(環境税)の導入に前向きであるものの、国内排出量取引制度は、産業界が既に自主行動計画を立てて温室効果ガス排出削減に鋭意取り組んでおり、排出枠を売却できる余裕のある企業は少なく、結局のところロシアなど他国から“ホットエア”と呼ばれる余剰の排出枠を大量購入(1兆円規模の税金投入)することになるだろう。環境税は、税率をかなり高く設定する必要があり、家計に大きな影響を及ぼす消費税の増税と同じく国民の賛同を得られるとは到底思えない。
企業の負担として、他業種と比較して温室効果ガス排出量が多い鉄鋼・セメント等は、2割程度の生産抑制を余儀なくされ、国内製造工場停止による労働者のリストラや人件費の安い生産拠点を求めて海外に移転することで、産業空洞化が加速度的に進み、2020年時点で実質国内総生産(GDP)を3.2%押し下げ、失業率が1.3%悪化(失業者約77万人)、国際競争力は著しく低下するだろう。産業界では、労使一体となって民主党の中期目標に反対する意向を示している。家計の負担として、環境税でエネルギー消費を抑制しようとすれば、光熱費に可処分所得を合わせて世帯当たり年36万円増え、日常生活が相当苦しくなる覚悟を強いられる。よって日本は、国内の合意形成に難航し、現行の京都議定書で温室効果ガス排出削減義務を負わない米国の動向や経済発展著しい中国・インドなど新興国がポスト京都議定書(2013年以降の地球温暖化対策の国際的枠組み)に参加するか不透明な状態で内憂外患の様相を呈している。

<出所>経済産業省総合資源エネルギー調査会需給部会、2009年8月
そこで、経済活性化と温室効果ガス排出削減の両立が考えられるが、基本的に経済を活性化させれば温室効果ガスが増え、過去の例を見ても温室効果ガスが減っているのは、経済がマイナス成長に陥った時のみである。また、厳しい中期目標を掲げることで技術革新を促し新産業や雇用を創出するとの見方もあるが、地球温暖化対策で期待されるエネルギー革新技術「21」は、今後10年間で実用化できるものが極めて限られており、2050年に及ぶ長期的な展望が求められている。さらに、民主党が連立を組んだ社会民主党は、マニフェストで「脱原子力」を謳い原子力発電に対して懐疑的で、地球温暖化防止に寄与する原子力推進で与党間調整が頓挫すれば益々1990年比25%削減の目標達成は遠退いて行くだろう。
温室効果ガスの大幅な排出削減に資するエネルギー革新技術「21」

<出所>『Cool Earth−エネルギー革新技術計画』経済産業省、2008年3月
EMSは、Energy Management Systemの略称で、HEMS(House Energy Management System)が家庭、BEMS(Building Energy Management System)がビル・建物におけるエネルギーを管理し、エネルギー利用の最適化を図る技術で、地域レベルEMSは、より広域的なエネルギー管理システムを指す。
日本が国益を毀損せず自助努力による「真水」の温室効果ガス排出削減幅は、森林吸収等を含めても前政権が掲げた2005年比15%削減が限界である。そもそも2005年比15%削減は、決して自由民主党内の思い付きではなく、内閣府と関係省庁に加え、複数の研究機関や大学教授らで構成された地球温暖化問題に関する懇談会の下に設置された中期目標検討委員会が約半年かけて入念に議論した結果を踏まえ、内閣総理大臣が諸条件を考慮して6つのケースから選ぶという公正なプロセスを経て決定した。政権交代でそれを反故とし、中期目標を大きく方針転換するならば再検討する手続きがあって当然である。民主党が実現可能性を見極めずに奇を衒って高い数値を打ち出した荒唐無稽な中期目標は、絵空事な画餅に終始し、逆行する高速道路の無料化と同様に国民が翻弄されるだけの愚策となりかねない。

中期目標検討委員会には、私が大学院修士課程在学中ご指導いただいた茅先生と浜中先生も委員を務めていた。
温室効果ガス排出削減中期目標の6つの選択肢

<出所>『平成21年版環境・循環型社会・生物多様性白書』環境省編纂
中期目標検討委員会は2009年4月、経済モデルを用いて6つの選択肢を示した。産業界や家計への影響を考えると、社会構造の劇的な変化を回避して緩やかなソフトランディング(軟着陸)が求められ、単純に目標値の設定が高いほど好ましいと言えない。
