スマートグリッドの行方[2009年06月07日(日)]
“電力版インターネット”と呼ばれる次世代送電網「スマートグリッド(smart grid)」が脚光を浴びている。スマートグリッドとは、これまでクローズド(閉鎖的)な集中・単方向型であった送電網を、オープン(開放的)な分散・双方向型に置き換える概念で、原子力・火力発電を中心とした大規模集中型電源と、風力・太陽光発電など再生可能エネルギーによる中小分散型電源、そして不足時に電力供給する自家発電・蓄電設備の協調制御技術であり、柔軟かつ頑健に運用される電力系統システムそのものを指す言葉である。送電網に最先端のIT(情報技術)を駆使した通信網を組み合わせることで電力需給を効率的に調整、つまり電気の流れを常時監視して電力の需要と供給が釣り合うよう自動コントロールすることから、頭脳や神経を持っているが如く「賢い送電網」を意味する。

地球温暖化防止に役立つ風力・太陽光発電など自然の力を借りた再生可能エネルギーは、時間帯や天候で発電量が大きく左右され、既存送電網での管理が難しく、結果的に再生可能エネルギー普及の妨げとなっている。そこで、再生可能エネルギーのように出力変動せず安定した発電量を保つ原子力・火力による大規模発電所からの供給で補完できれば、再生可能エネルギーの間欠性を払拭でき、普及を後押しできる。

<出所>環境省
家庭の電力消費を細かく管理する次世代検針器「スマートメーター」の指令に基づき電力需給バランスを確保し、電力消費に応じて電力使用量を最適分配する。例えば、電力消費がピークに達する真夏の猛暑日に電力需要が一定水準を超えると、遠隔操作で自動的にエアコンの設定温度を上げ、最大電力使用量が膨らむことを防ぐことができる。一方、電力供給が電力消費を超えると、電気自動車やプラグインハイブリッド車への充電、ヒートポンプ利用など電力需要を創出し、余剰電力の逆潮流に伴う停電を防ぐことができる。また、スマートメーターが構成するスマートグリッドから収集された的確な情報を利用することで、消費者は、電力使用量や電気料金をリアルタイムで把握でき、エネルギー無駄遣いの習慣を見直し、節電による省エネルギー意識を高め、ライフスタイル改善への動機付けとなり得る。
米国オバマ政権は、地球温暖化防止に資する「グリーン・ニューディール」政策の要諦として、官民挙げたスマートグリッドの研究開発に着手している。スマートグリッドには、電子部品やソフトウェアなど多様な関連機器が必要となることから、米国エネルギー省(DOE)が33億ドルのスマートグリッド研究開発に係る補助金枠として支給対象事業を選定し、今後20年間で9千億ドルに及ぶ需要創出効果のほか、新規雇用拡大も見込んでオバマ政権が景気回復の原動力に位置付けており、企業や家庭の電気料金引き下げに波及する相乗効果も期待されている。
米国のスマートグリッド概念図

<出所>DOE
米国においては、スマートグリッド実現のための設備投資(特にスマートメーター及び蓄電池等への投資)を掲げたオバマ大統領の選挙公約、米国電気電子学会(IEEE)の標準規格制定に向けた検討、送配電技術を持つゼネラル・エレクトリック(GE)とソフトウェア開発を手掛けるグーグルのスマートグリッド関連提携(エネルギー分野とIT分野の融合)、スマートメーターの製造で先行するIBM、スマートグリッド対応の通信網整備を狙うAT&T、送電網に組み込む専用チップの開発で凌ぎを削るインテルなど半導体メーカー等、機運が高まっている。
米国のスマートグリッドについて、2009年2月19日に行われた次官等会議後記者会見で経済産業省の望月晴文事務次官(元資源エネルギー庁長官)は、以下のような質疑応答をしているので、同省のホームページ(http://www.meti.go.jp/speeches/data_ej/ej090219j.html)に掲載されている概要を抜粋して紹介したい。
Q.記者:スマートグリッドという言葉が使われていて、それがあたかもオバマ大統領のグリーン政策の一つの柱のように言われていますけれども如何でしょうか。
A.望月次官:それは間違いだと思います。スマートグリッドというのはどちらかというと、米国の送電網が相当つぎはぎだらけで、よく大停電を最近起こしていましたから、そういった面でインフラ整備をしなければいけないということも一つだと思います。送電網の整備、系統運用のところだと思います。その点、日本の送電網というのは、よく比較されるのですけれども、しっかりしているというところがありますから、重点の置き方は違っていると思います。あれはグリーンエネルギーではなく、むしろ、もっと直裁に太陽光や風力などの新エネルギーみたいなところについての投資部分は確かに入っていると思います。あのスマートグリッドのところの投資金額というのは尋常ならざるものがあると思います。これはやはり近い過去に、何回も大停電を起こしておりますから、そういった面で、これから米国がインフラ整備を再整備しておかなければいけないという非常に重要な部分であると思います。そういった点に景気対策として日本で需要を見つけようとすると、比較的少ないのも事実だと思います。もちろん、送電網について、電力会社は着々と投資は続けていると思いますし、それから前にさんざん話題になりましたけれども、基幹送電網は旧電源開発が整備したというところも、かなりしっかりした部分はありますから、そういった点の差はあると思います。
A.望月次官:それは間違いだと思います。スマートグリッドというのはどちらかというと、米国の送電網が相当つぎはぎだらけで、よく大停電を最近起こしていましたから、そういった面でインフラ整備をしなければいけないということも一つだと思います。送電網の整備、系統運用のところだと思います。その点、日本の送電網というのは、よく比較されるのですけれども、しっかりしているというところがありますから、重点の置き方は違っていると思います。あれはグリーンエネルギーではなく、むしろ、もっと直裁に太陽光や風力などの新エネルギーみたいなところについての投資部分は確かに入っていると思います。あのスマートグリッドのところの投資金額というのは尋常ならざるものがあると思います。これはやはり近い過去に、何回も大停電を起こしておりますから、そういった面で、これから米国がインフラ整備を再整備しておかなければいけないという非常に重要な部分であると思います。そういった点に景気対策として日本で需要を見つけようとすると、比較的少ないのも事実だと思います。もちろん、送電網について、電力会社は着々と投資は続けていると思いますし、それから前にさんざん話題になりましたけれども、基幹送電網は旧電源開発が整備したというところも、かなりしっかりした部分はありますから、そういった点の差はあると思います。
以上、望月次官は、大停電の頻発という米国特有の事情(脆弱な送電網)がスマートグリッドを進めている要因としたうえで、日本の場合、盤石な送電網を有することから米国に追従する必要はないという見解である。一方、以前「衆ノ雑感」再生可能エネルギー普及方策(環境省提言)でも紹介した環境省・低炭素社会構築に向けた再生可能エネルギー普及方策検討会は、「欧米でも実現に向けて本格的な検討が開始されている“スマートグリッド”と呼ばれる新たな電力系統システムがある。スマートグリッドは、情報技術の活用により需給調整に需要調整、分散電源の出力調整を積極活用するもので、必要となる総発電設備容量の低減や、分散型電源と既存の大規模集中電源から構成される電力系統の効率的利用を可能とし、同時に再生可能エネルギー電力の大量導入を可能とするものである。そこで、我が国としては、柔軟且つ頑健な電力系統システムを構築し、更には再生可能エネルギー電力を基盤的電源とした低炭素社会を実現させるためにもスマートグリッドの実現について真摯に検討を開始すべきである」と提言しており、望月次官の見解と対極にあるように受け止められる。
望月次官が指摘しているとおり、2009年2月に米国で成立した景気対策法では、老朽化した送電網を補強するため110億ドルを計上しており、堅牢な日本の既存送電網には該当せず、この点で米国に追従する必要はないものと思われる。ただ、DOEがスマートグリッド研究開発に係る補助金枠として設けた33億ドルは、再生可能エネルギー普及を後押しするスマートグリッドに不可欠な関連技術開発を促すための財政支援であり、低炭素社会への移行で商機が広がると見て製品販売・サービス提供に注力し、関係する特許や世界共通の標準規格づくりで主導権を握れば国際競争力強化に繋がることから、揺籃期にある日本としても官民挙げて取り組むべき事項であるという点で環境省の提言にも一理ある。折しも産学レベルでは、東京電力(株)が東京工業大学、(株)東芝、(株)日立製作所、東芝三菱電機産業システム(株)、富士電機システムズ(株)、(株)明電舎、伊藤忠商事(株)、(株)関電工と共同で、日本版スマートグリッドに向けた国内初となる実証試験を3年間、東京工業大学のキャンパス内で2010年度から開始することから試金石となるだろう。よって、米国に倣うのではなく、国情に合致した日本版スマートグリッドを構築することこそ国益に適うものと考える。
